株式会社 田中三次郎商店

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特集⑦

打倒外来種・ウチダザリガニ!
真冬の北海道での大作戦と、
チームの知られざる素顔
(前編)

本来そこに生息しないはずの動植物で、在来種を駆逐するなどして繁殖し、生態系の脅威となる外来種。日本で問題となっている代表的な外来種には、アライグマやカミツキガメ、ブラックバスなどが挙げられます。今回取り上げる「ウチダザリガニ」もそのひとつ。在来種のニホンザリガニには勝ち目がない大きさと攻撃力で、環境適応能力にもすぐれるといいます。日本に生息するもう一種、やはり外来種のアメリカザリガニと同じく、昭和のはじめころ北米から持ち込まれて以来、勢力を拡大中。侵略的外来種とも呼ばれ、まるでバルタン星人のよう。もとはといえば人間の都合で遠い国から連れて来られたのですが、一度居ついたものを人間の手で駆除するのは至難の技です。またまたの特大号、前編では、ウチダザリガニと対峙する取り組みをリードしてきた三重大学の金岩准教授と仲間たちによる極寒の北海道での大作戦、後編は個性派研究者、金岩先生の人となりをお届けします。

前編
「2ヶ月前に放した
ザリガニを探して」

後編はこちら

みんなそろって、
これがウワサのザリガニピース!

登場人物:
三重大学大学院・
生物資源学研究科准教授
金岩稔さんと
仲間たち

冬眠中の
ウチダザリガニを
一網打尽に?

12月半ば、その日福岡を出発し女満別空港に降り立ったのは、田中三次郎商店の田中社長と2名の社員。そして技術的な諸々を担う強力なパートナー、鈴木技研の鈴木雅也代表。レンタカーで向かった網走市内、夕食会場で一同を待っていたのは、今回の主役、三重大の金岩稔先生と、以前はこの地にある東京農大オホーツクキャンパスに在籍していた金岩先生ゆかりのみなさん。事前にインプットされた情報がわずかだったため、金岩先生と田中社長と3人だけで、風雪に耐えながらザリガニを掘る淋しい絵を想像していましたが、思いがけずにぎやかにお迎えいただきました!高級魚キンキの湯煮にウスターソースをつけて食べるという網走流の食べ方も伝授されて、テンション上昇です。

しかし翌日の天気予報が思わしくない。「そんなに風が吹いたらドローンが…」と相談を始める田中社長と鈴木さん。「冬眠中のウチダザリガニの巣窟を掘って一網打尽にする」作戦と聞いていたはずが、なぜにドローンなのだ…とホロ酔い気味の頭に疑問を浮かべつつ、天候が崩れる前にドローンを飛ばす必要があるからと、翌朝6時出発を告げられたのでした。

暗いうちに起き出し、網走から40分、最寄りのコンビニから車を走らせること20分ほどで到着したのは、美幌(びほろ)町を流れる小さくきれいな鶯沢川でした。ドローンのミッションは、受信機を搭載して飛び、2ヶ月ほど前に電波発信機を取り付けて放したウチダザリガニ3匹の居場所に、だいたいのアタリをつけることであったと判明。早朝出発の甲斐あって、穏やかな空を順調に飛行し、無事に電波を受信しました!ザリガニが、想定していたエリア内にとどまっていることが確認できたのです。ドローンを用いたこの試みの成功に、これまで技術的な試行錯誤を繰り返してきた鈴木さんは一安心。初日の朝だけで大収穫!現場で作業すべくみんなが着替えるころには「私の目的はもう達成…」と、ひとりつぶやく鈴木さんの姿が。

ハイテクを駆使した
メスザリガニ捜索網

今回の作戦で描かれていたのは、事前に聞かされていた通り「冬眠中のウチダザリガニを巣窟ごと一網打尽」です。金岩先生のお話によると、長らく問題視されてきたウチダザリガニの駆除にあたっては、これまでもさまざまな試みがなされてきました。金岩先生も、数年にわたりかかわってきたそうです。それらはしかし、どれも決め手に欠け、個体数を減らし中長期的には絶滅させるまでの成果に結びつきそうな方策は、いまも見出せていない状態です。この時期に抱卵するメスがどのような場所で冬眠するのかを知れば、産卵前の効率的な駆除が可能になるかもしれません。ウチダザリガニが集団で冬眠をするという仮説を立て、発信機をつけたメス3匹に、集まっている場所を案内してもらうというのが今回の作戦の要旨だったのです。

ドローンでの調査のあとは八木アンテナというアイテムの登場です。ドローンが上空で受信し確認できたのは、あくまで発信機をつけた3匹のウチダザリガニの“存在”です(この時点では生死も不明)。詳細な居場所を突き止めるためには、このアンテナを携えて川の中や周辺を歩き、反応の強い箇所を特定する必要があります。ちょうど金属探知機を持って砂浜を歩くようなイメージです。なんといっても、ウチダザリガニの生態には解明されていない点が多く、どの程度の距離を移動するのか、どのような場所でどのように冬眠するかもわかってはいないのです。ニホンザリガニより大型とはいえ、せいぜい15cmほどの小型生物に、2ヶ月ぶりに自然の川で対面しようとするのですから、当てずっぽうでは無理です。

見た目にはきれいな景色ですが、春の小川のようには甘くありません。寒いです…!

金岩先生と、美幌博物館の学芸員の町田善康さん、金岩先生を恩師とする、現在は一般財団法人自然環境研究センター研究員の菅野貴久さんをはじめ、趣旨に賛同して集まったみなさんはそろって頼もしい!装備は万全といえども、真冬の川の中に勇敢にも(しかもこともなげに)ジャブジャブ入り、アンテナの反応を頼りに、網で周辺をさらったり、カッチンコッチンに凍りついた川岸の土をスコップで掘ったり、知らない人が見ると苦役にしか見えないであろう作業を、むしろ生き生きとした様子で繰り返します。

今回は大成功。
うまくいきすぎなくらいでした!

実りある大作戦。
初日のヒーローは、
東京から駆けつけた
金岩先生の弟子!

午前中の数時間では見つけることができず、お昼休憩を挟んで再開した午後の作業。アンテナで受信反応が強かったのは、川の中や川に接した岸ではなく、2メートル弱離れた土の上。掘り進めると、伏流水が流れ入るところだとわかりました。掘れども掘れども姿を現さないザリガニ。「ここ掘れ」と指示を出し続けるアンテナ。数値こそ、どんどんターゲットに近づいていることを示してはいましたが、果たして本当に見つかるのだろうか…と、誰もが少しだけ弱気になっていたときでした。最年少、東京から仕事を休んで駆けつけた菅野さんが、「いたー!いたいた!!」と!その手に高く持ち上げたのは、探し求めたあのウチダザリガニです。背中には、脱落を繰り返し、苦心の末にやっと固定できるようになった(by町田さん!)という発信機を、しっかりと背負っていました。

翌日の午前中にもう1匹が、午後には3匹目が発見され、都度歓声を上げるメンバーたち。宝探しのような二日間が終わり、達成感をたたえた晴れやかな表情を見せていました。今回の大作戦でわかったのは、①ウチダザリガニはどうやら集団で冬眠するようなことはなく、巣窟ごと一網打尽という目論見は成立しないということ。②移動範囲は狭いということ。それから、3匹とも川から少し離れた岸の土を掘り返して見つかったことから、③ウチダザリガニ自体が土を掘ったり削ったりする能力にすぐれ、深く潜り込むことができるのか、あるいはそうではなく、上からは見えない、伏流水の流れる隙間を自由に行き来しているのか。④いずれにしても、あえて冬期に駆除の作業をするのは効率も悪く、現実的ではなさそうだということです。研究グループにとっては、これらがわかったことも成果です。加えて、ドローンと八木アンテナを用いての調査は、ウチダザリガニに限らずさまざまに応用できるであろうことも判明し、極寒の中の苦役に終わらず、十分な成果をもたらした今回の作戦でした。

最高でした!東京から来た甲斐がありました。

捉えたウチダザリガニを手に、ご満悦の菅野さん。