株式会社 田中三次郎商店

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特集⑤

ニッポンの、川で遊ぼう!
サケ科の研究者による、
河川への関心を取り戻すための試み
(前編)

現代の日本人と川との接点は、河原で花火大会か、バーベキューか。もっと機会を増やし、距離を縮めたい。そう願う淡水魚の研究者は少なくないようです。というのも、そこに棲む魚を保全するには、広く河川に目を向けてもらうことが不可欠だからです。「河川の環境を守りましょう」の啓発スローガンのみでは期待薄。より多くの人たちが、川を体験として取り入れることでしか、前進は見込めないのではないか。かくしてサケ科魚類研究における日本の第一人者、宮城教育大学理科教育講座 棟方有宗准教授は、サケ・マスの生態を調査・研究するにとどまらず、それらの魚のすみかである河川の観光資源化を探っています。今回は特大号!前編で棟方先生のお話、後編では、棟方先生と行く、おそらく日本初であろうスタイルの!北上川下りをお届けします。

前編
「世界有数の(!?)
釣りの達人研究者が
東北にいた」

後編はこちら

サケ科を取り戻すことは、すなわち河川の環境を取り戻すこと!

登場人物:
宮城教育大学理科教育講座
准教授
棟方有宗さん

奥多摩を
ホームにしていた
少年、
お魚の学問の道へ

由緒漂うお名前の棟方先生は東京ご出身。先生が釣り人生をスタートさせたのは小学校2年生のときで、ヤマメやマスを狙い週5で奥多摩に通ったというのですから相当なものです。しかもそれが少年時代だけに終わらないのです。高校生のとき、遂に現在のような研究者を志望するに至った棟方青年、その理由は、「川にい続けられるから」でした。釣りへの情熱は、あのころからいまも変わっていません。現在は、「(自身の)定年後の釣り場を確保するためにも、河川の環境を良くしてサケ・マスを増やさなくては」という情熱も加わりました。

棟方先生は、大学院のときに研究対象をサケ科に特化します。サケが川から海に行き、再び川に戻ってくるのは知られていますが、その中身には解明されていない点が多いため、棟方先生は、実地での調査を重ね、詳細を明らかにしようとしています。サケ科の魚の生息域は、北海道を中心に東北から関東にかけてで、南限を多摩川としています。昔から木彫りの熊すらサケをくわえていた北海道でも枯渇が叫ばれる昨今ですが、水がぬるくなる南に行くほど危機的状況。棟方先生は、だからあえて東北を拠点にし、危ういところに目配せしているのです。

消えゆく、
日本のサケ・マスを
守りたい

サケ科の魚を取り巻く状況は、実際どのようになっているのでしょう。尋ねてみると棟方先生、「いまはもう、場合によっては一匹一匹手塩にかけて守っているような状態」とおっしゃいます。それほどまで…。

「たとえば岩手県の気仙川。私が調査を始めた2004年には、ヤマメ(サクラマス ※ヤマメのうち、川から海に出て、再び川に戻ってきた個体がサクラマス。まったく種類の異なる魚のように大きい)が帯状に泳いでいるのを目視できるほどでした。一年ごとに半減を繰り返し、2010年にはほぼ姿を消しました。宮城県の広瀬川にも、昔はおびただしい数で泳いでいたのに、いまでは400~500メートルの間に片手に余るほどしか生息していない箇所もあります」と、棟方先生。環境が悪くなると、てきめんいなくなるのがサケ科の特徴なのだそうです。

広瀬川にのぼるサクラマス。
この魚がいるかどうかが、東北地方の川の健康をはかるバロメーターとなる。

調査にあたりサンプルの魚を捕獲する際、魚にとって最も負担が少ない捕獲方法が「釣り」。魚からすると最大のストレスは皮膚に触れられることであるため、網に触れればケガを、人が触ればヤケドを負うのと同じなのだと教わりました。魚類の研究者=釣りが得意というわけではないので、棟方先生のような釣りの達人は非常に貴重。ご本人の談によると「知る限り、私のほかにはアメリカにもうひとりいるだけ。これについては間違いなく第一人者を自認できます(笑)」とのこと。

世界有数の、釣りのできる研究者です。

人々の河川への関心を、
取り戻せないか?

そんな棟方先生、「魚がいる地球を次世代に」が研究の大テーマ。生き物は、まずは水があればなんとかなる。その、水の中にいる代表格が魚ですから、魚の存在は環境全体をはかるためのバロメーターになりうるというのが棟方先生の考えです。そしてサケ科の魚の特徴として、放流や養殖ではうまくいかないという、これまでの前例が示す実態があります。そうした取り組みが功を奏さない以上、自然環境を守るしか手立てがないのです。

ところが、時代を経るにつれ、川と人々との距離は広がるばかり。愛着のないものを守ろうと叫んでも無理があります。小学校での教育支援の一環で、メダカを題材に授業を行うなどしてきた棟方先生も、「直接的な保全とは異なれど、なんらかの形で、実際の川を体験的に知る人たちを輩出するのが結局最も効果的なのではないか」と、自身の経験に照らして思いを強くしています。

後編では、河川への関心を高める手段のひとつとしての、観光資源化も視野においた実験的な試み。岩手と宮城を流れる北上川を、ほとんど前例のないスタイルで下る、棟方先生と仲間たちのおもしろくも真面目なチャレンジをお届けします!

寒いときのラーメンは具なしでもごちそう!

川の上での食事ももはやお手の物。