株式会社 田中三次郎商店

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特集④

その名は「Qサバ」!
九州大学 ✕ 唐津市の
マサバ完全養殖プロジェクト(後編)

「近大マグロ」のブランド化をきっかけに養殖への期待が高まる近年、サバの激戦区とも言われるエリアで、2012年よりマサバの完全養殖プロジェクトに取り組む研究者がいます。九州大学大学院農学研究院准教授の長野直樹氏がその人。名前の由来はあえてつまびらかにしないという「Qサバ」の、生みの親です。このプロジェクトの最大の特徴は、九州大学と唐津市の共同によるものだという点です。国や県単位では例があるものの、市が行うのは非常に珍しいのだそう。また、研究機関でのこうしたプロジェクトは通常、技術が確立すると研究者の手を離れるものであるのに対し、流通まで通して関わっています。それどころか、研究者である長野先生自らが飲食店に営業に赴き、販路開拓にも貢献しているとか。前後編で、売り込んだ?長野先生と、売り込まれた?福岡市内の居酒屋「だるま屋」さんの、両方にお話をお聞きしました!

後編
「Qサバと天然サバの
食べ比べができる居酒屋で、
オーナーさん、
店長さんに聞く」

前編はこちら

長野先生はじめ、Qサバに関わる人たちとともに、さらに上のおいしさを目指します!

登場人物:
海鮮居酒屋だるま屋
オーナー 材木伊賀松さん(右)
店長 本部侑哉さん

「Qサバ」との
運命的な?出会い

「Qサバとの出会いは長野先生を通じて。初めは二人で来店されて、長野先生は、水槽を見ながらしきりにぶつぶつ言っていて、そのうち、サバってだいたい400グラムくらいですかね?なんて尋ねるんです。おかしいじゃないですか(笑)」と、楽しそうにお話ししてくれた材木さんと本部さん。その口調から、長野先生への親しみが感じ取れます。

カウンター越しのそのやり取りをきっかけに、Qサバの養殖ストーリーを知ったおふたりは、長野先生の話しやすいお人柄にも惹かれたのでしょう。「遊びに来てください」と言われた翌週にはもう、唐津の研究所を訪ねたそうです。フットワーク軽くて素敵です。「今となってみればとても良いご縁をいただきました」とのこと。

「だるま屋」は、Qサバの取り引きだけでなく、研究協力を兼ねて関わるように。研究所では、生きたQサバを輸送したあとの様子まではなかなか追えないため、その後水槽で泳がせている飲食店でのデータがほしかったそう。もちろん、味についての意見、感想も、飲食店からならダイレクトに届きます。この連携は、だるま屋さんにも新しい視点を与えることとなり、双方にとって有意義なものになったそうです。

想像以上に、良い素材

もともとだるま屋さんでは、天然もののサバのみを扱っていました。「もちろん良さもあるのですが、天然がゆえに、時期などの条件による味覚の波は避けられません。その点Qサバは、冬場の天然もの並みの脂の乗りが夏場でもキープできています。夏のサバはおいしくないという方にも、Qサバならおすすめできます。寄生虫の心配もないですから、いろんな面で扱いやすくもあります」

おふたりによると、そんなふうに重宝なQサバも、最初はあんまりおいしくなかったらしいです。「なんとも餌くさくてね。生餌(なまえさ)で育っていると独特のにおいがあるんですよ」と。そういったこともすぐにフィードバックできるから、お互いに良かったそう。「長野先生や餌の業者さんの、改善のための取り組みに関わるのは、僕らにとっても貴重な機会。ご一緒するうちに、以前は食材として捉えていたサバを、もっと生き物として見るようになりました。個体による特徴にも敏感になりましたね」

ピチピチのQサバをすくい上げる本部店長

今では、毎日のようにいらっしゃる味にうるさい常連さんに「おいしい!」と言わしめるQサバ。店の入り口には大きなポスターが貼られ、その横でスイスイ元気に泳ぎ回っています。店の看板食材として、胸を張っておすすめされているのです。きっと長野先生も誇らしいことでしょう。なんといっても、お客さんによっては(天然ものより)Qサバのほうが好きだという人もいるくらいなのだそうですから。

いよいよいただいてみると、天然もののほうが、よりしっかりとした食感と青魚らしい風味があるように思いました。注目のQサバは、逆に青魚特有のそれが苦手という人にも好まれそうなクセのなさ。いや、どちらもおいしい…!サバ食文化の根づく九州にあっても、天然と養殖の両方を水槽で泳がしていて、食べ比べができる店はめったにないといいます。だるま屋さんは日本酒もたくさん揃っていて、呑んべえさんにはたまらないお店です。博多にお出かけの際にはぜひ♡

博多では、我らがQサバで一杯どうぞ!

気さくな笑顔で迎えてくれるおふたり。
サバとお酒には一過言お持ちです。

取材を終えて

東京では出会ったことのないサバの生き造りをいただきました。しかもQサバと天然サバを食べ比べるという贅沢!ありがたいやら、おいしいやら(涙)。どちらにも持ち味があり、食べる側の好みは分かれるところですが、天然ものはそもそも資源として少なくなってきているのですから、どちらのサバにも感謝しなくては。これまでなんとなく、「やっぱり天然もの」とえらそうに思っていましたが、反省です。資源のこと、関わる人の努力のこと……自分の口に入るまでの道のりを知るのは、やはり大切なことですね。(取材・文:みつばち社小林奈穂子)