株式会社 田中三次郎商店

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特集①

その名は「Qサバ」!
九州大学 ✕ 唐津市の
マサバ完全養殖プロジェクト
(前編)

「近大マグロ」のブランド化をきっかけに養殖への期待が高まる近年、サバの激戦区とも言われるエリアで、2012年よりマサバの完全養殖プロジェクトに取り組む研究者がいます。九州大学大学院農学研究院准教授の長野直樹氏がその人。名前の由来はあえてつまびらかにしないという「Qサバ」の、生みの親です。このプロジェクトの最大の特徴は、九州大学と唐津市の共同によるものだという点です。国や県単位では例があるものの、市が行うのは非常に珍しいのだそう。また、研究機関でのこうしたプロジェクトは通常、技術が確立すると研究者の手を離れるものであるのに対し、流通まで通して関わっています。それどころか、研究者である長野先生自らが飲食店に営業に赴き、販路開拓にも貢献しているとか。前後編で、売り込んだ?長野先生と、売り込まれた?福岡市内の居酒屋「だるまや」さんの、両方にお話をお聞きしました!

前編
「サバ好き研究者、
長野先生を訪ねる」

「Qサバ」ブランドを確立し、そのふるさとの活性につなげたい

登場人物:
九州大学農学研究院准教授
(宮崎大学農学部)
長野直樹さん

「Qサバ」の
名前だけじゃない、
個性あるプロジェクト

Qサバが誕生した唐津市水産業活性化支援センターは、海沿いにあるあたらしくきれいな施設です。早速長野先生に、養殖設備をご案内いただきながらお話をお聞きします。飄々とした中に時折ユーモアを感じさせる長野先生、「このような枠組みでのプロジェクトに関わるのは初めてですが、より直接的なフィードバックを得られて面白いし、やりがいがあります」と語ります。

長野先生がおっしゃるのは、このプロジェクトが、生産者のほか、一般消費者に直結する小売業者、飲食店などとも意見交換がしやすい体系であるということ。実際に、Qサバを扱う居酒屋から直接ヒアリングできたり、前述のようなプレイヤーが一堂に会するミーティングを月に一度ペースで行っていたり、生の声が研究者に届く仕組みづくりができてきたそうです。

「従来の研究と違って流通まで一貫して携わっているため、研究が実社会でどのように生かされるかの実感が持ちやすい。お店の反応を聞きながら改良を重ねてゆく中で、これまでは縁のなかった領域の事情を知るようになって、より相手の立場に立った視点を研究に取り入れる循環ができました」と長野先生。

水産資源を守ると同時に、
唐津市の地域活性に
つなげるのがゴール

2016年に入ると多くのメディアに取り上げられるようになるなど、評判が急上昇中のQサバですが、2014年まではその評判も芳しいとはいえず、養殖独特の匂いがあるとか、生きたまま納めたサバがすぐに死んでしまったとか、長野先生のところにもネガティブな意見が届いていました。「どのように輸送したらサバの負担を軽減できるか、飲食店の生簀のような環境では、どんな条件が揃えば元気でいられるのか、また、どんな餌を与えれば味が向上するのかなど、解決すべき課題が多かった」と、長野先生は振り返ります。

元気に泳ぐQサバ。こちらは採卵用の成魚候補だそうです。

そもそもこのプロジェクトが始動するに至った主なきっかけは、多くの水産関係者が危機感を持つ、世界的な資源の減少です。大衆魚のイメージのある、サバなどいわゆる青物も例外ではなく、唐津港でも、かつて西日本一を誇った青物水揚げ量が5分の1まで減っています。そうした背景に伴い養殖マサバの需要は高まりを見せ、九州、四国を中心に盛んに行われるようになりました。しかしその大半は、天然の幼魚、成魚を養殖用種苗として捕獲し養成するもの。Qサバは、人工孵化させた成魚から採卵し、さらに人工孵化させて飼育することを繰り返す「完全養殖」です。

試行錯誤を重ねてノウハウを高めることで食味を向上させ、百貨店からも声がかかるようになったQサバ。天然サバでは注意が必要な寄生虫、アニサキスの心配がないのも利点です。大量生産は視野になく、丁寧に販路を開拓し、ブランド価値を上げることで、唐津市の地域活性につなげるのがプロジェクトの最終目標です。

良質な養殖魚によって、水産資源と食文化を守ることができます

販路開拓にも
奔走する研究者、
「好きな食べ物はサバ」

「旅館でも居酒屋でもレストランでも、まずはお客さんとして行って、Qサバを扱ってもらえる可能性があるかどうか様子をうかがっています。決して口実をつくって飲み歩いているわけではありません」と、ユニークな草の根営業に歩く長野先生。毎日サバの顔を見ていて、食べるのはさすがにもう飽きたかと思いきや「好きな食べ物はサバです。昨日もサバ缶食べました。サバ缶って味つけがだいたい5種類はあって…」と、なめらかな口調で意外な回答。餌をあげながら「サバは頭がいいんです。マグロよりずっといい」とのサバ贔屓発言もあり、サバ愛を発露する長野先生なのでした。

そんな長野先生、職場のスタッフのみなさんにお人柄を尋ねると、「とにかくやさしい。ユーモアもあります!」と、ずいぶん愛されているご様子でした。そのような先生の手がけたQサバ、ぜひ食べてみたい!…ということで、後編ではQサバが人気メニューのひとつだという福岡市内の居酒屋「だるまや」さんに行ってみることに。実はこの「だるまや」も、「まずはお客さんとして」訪れた長野先生の草の根営業からお取り引きが始まったのだそうですよ!楽しみです。

長野先生は、やさしくて人気者です♡

「長野先生はやさしい」の言葉にウソがないことが、
スタッフのみなさんの表情に表れていると思うのですがどうでしょう!